肝臓の病気で想像するのは、お酒の飲み過ぎによるアルコール性肝炎や肝硬変、ウイルス性肝炎、そして肝臓がんが多いと思います。飲酒習慣のない方の多くは、「アルコール性肝炎とは無縁だ」と感じておられるかもしれませんが、アルコールを飲まない方でも非アルコール性脂肪肝炎「NASH」になりうるっていうことをご存知でしょうか?近年増加している「NASH」は、肝硬変や肝がんに進行することもある危険な病気なのです。
飲酒やウイルス感染とは無関係の方でも、肥満や糖尿病、高血圧症、脂質異常症といった生活習慣病とともに「脂肪肝」になり、さらにNASHへと進行してしまうことがあります。生活習慣病があり、お酒をまったく、あるいは少量しか飲まないのに脂肪肝と診断された方は、すでにNASHに進行している可能性がありますので医療機関できちんと診断を受け、生活習慣を改善し、進行を食い止めることが重要です。
NASHは肝臓に脂肪が蓄積する「脂肪肝」から進行します。もちろん、すべての脂肪肝がNASHに進行するわけではなく、体質(ある種の遺伝子多型)によっても、その発症や進展が大きな影響を受けることがわかっています。しかし、健康診断における腹部超音波検査で約3割の方が脂肪肝と診断される現在の状況を考えると、脂肪性肝疾患の方は全国で少なくとも2,000万人、NASHの方は300〜400万人程度いると推定されますので、「脂肪肝くらいなら大丈夫」と、軽く考えるのは危険だと言えるでしょう。こうした脂肪肝に炎症を伴った状態であるNASHを放置すると、肝硬変へと進行する可能性が高まり、さらには肝臓がんを発症してしまうこともあるので、脂肪肝には十分な注意を払うことが必要なのです。実は、肝炎ウイルス(B型やC型)による肝臓がんより、こうしたNASHや糖尿病などの代謝異常に基づく肝臓がんが、全国的に増えているのです。
脂肪肝は、メタボリック症候群の身体所見の一つです。高度な内臓脂肪の蓄積を伴うメタボリック症候群では、脂肪肝以外にも高血圧症、肥満、糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞などの疾患を複合的に合併しやすく、放っておくと、身体的にも精神的にも、そして経済的にも苦しむことになりかねません。健康診断で「脂肪肝」と診断されたら、「イエローカード」をもらったと思い、食生活の改善(お酒も適度に)、運動を心掛けるなど生活習慣の改善に努めましょう。
肝臓は、大人で1~1.5㎏の人体最大の臓器ですが、胃や心臓などと違い、どういう働きをしているのか実感しにくく、少々無理をしても自覚症状が出にくい、いわゆる「沈黙の臓器」です。したがって、その状態を知るには健康診断が有効です。NASHが見過ごされ、肝硬変寸前まで進行していたということもまれではありません。健康診断の結果をきちんと確認し、肝機能に異常があったときには、自覚症状がなくても医療機関を受診し、専門医の診断を受けましょう。NASHの有病率が増加しているといわれる現在、お酒を飲む方同様に、飲まない方も肝臓をいたわるための食生活を中心とした生活習慣改善への意識づけが重要です。